イギリス観察辞典

評価:
林 望
平凡社
¥ 1,050
(1996-11)
コメント:妻の母がイギリスに来たときに置いていってくれた本だったのですが、非常におもしろいエッセイ集で、一気に読んでしまいました。 元々この作者は書誌学者が本業だそうですが、文章もものすごくうまく、この本が文庫になる前のオリジナル版で、講談社エッセイ賞を受賞されていたそうです。 エッセイ集ですから、短いもので1ページ、長くてもせいぜい10ページ程度と短いので、通勤電車の中で読むのに最適で、僕も主に行き帰りの地下鉄の中で読んでいました。

この本の書かれた時代が、1990年前後のようですから、今からすでに20年ほど前ということもあり、最近のロンドンを中心とするイギリスの状況と比べると、結構変わってしまったところもありますが、一方で全く変わっていないところもあります。この本の大きなテーマの一つが「伝統を重んじる国イギリス」というところにあり、100年以上前のビクトリア朝の頃、あるいはさらにその前にできた建物や日用品やサービス、風習などを紹介するエッセイが数多く含まれているのですから、それからさらに20年経ったからといって、そう簡単に変わっていないのも宜なるかなでしょう。

この本を読んでいると、ああ、イギリスってほんといい国なんだな、という気持ちがしてきますが、作者の語り口にはそれほど説教臭さがない(皆無ではありませんが)ため、読んでいてあまり嫌みではなく、内容に反発せずに素直にイギリスの良さを感じることができます。
とはいえ、実際に住んでみたイギリスは、それほど「すばらしい国」とばかりも言えないことが多々あり、読んでいて作者との受け取り方の違いに苦笑せざるを得ないところもままありましたが。

ともあれ、作者の観察眼の鋭さが、軽妙で洒落た文章にくるまれて軽快に味わえますので、読んでみて決して損はない本だと思います。


イギリス人の格

評価:
井形 慶子
集英社
¥ 630
(2009-04-17)
コメント:読みやすくて共感できるところも多い本だったのですが、多少説教くさいところがちょっと減点材料。

 イギリス在住ではないものの、イギリスに惚れ込んで、数多くのイギリス生活関連著書を著しただけでなく、自力でイギリススタイルの自宅を建てたというある意味「イギリスおたく」とでもいえるような著者が、昨今のイギリスの状況を踏まえて書いた本で、非常に共感できるところも多く、なかなか楽しく読めました。

ただ、全体として「日本はイギリスに学べ」という姿勢で一貫して書かれており、イギリスの悪いところにはあまり触れられておらず、イギリスのようになっていないことろ、反面教師として考えなければならないところという視点がほとんど見られないところが、ちょっと物足りない感じです。たとえば、イギリス人の貯蓄率の低さを「お金は使うためにあるというポリシー」とかなり肯定的にとらえて書かれており、社会福祉に対する信頼感がそれを可能にしていると結論づけていますが、現実のイギリスの行政サービスの状況は、そうほめられたものではなく、むしろイギリス人の「不便であることに対する驚異的な我慢強さ」によって保たれていると言った方が正しいように思いました。また、すべての公立学校のランキングが公開されており、学校を選択する自由があるところをほめていたりもするのですが、実際に子供をこちらの学校に行かせている親としては、弊害の方がむしろ大きいように思えてなりません。

ただ、一方で、チャリティ活動の活発さや外国人に対する社会全体での寛容性、高齢者の充実した行き方など、イギリス人のほんとうにすばらしいところも数多くの実例、実体験とともに紹介してくれているのは、非常に説得力もあって多いに共感できましたし、共感できなかった意見についても、そもそもどういう情報をどのようにとらえて、それを自分の生活や行き方、社会のあり方などにどのように活かしていこうとするかは人それぞれなのですから、別にかまわないでしょう。

また、文庫版巻末の、葉加瀬太郎夫人の高田真由子さんの解説も、生活実感がこもっていて楽しかったです。

この本を読んで、イギリスのすばらしいところを感じ取り、それを日本での自分の生活に取り入れて日本を少しでもよくしていこうという気持ちを持った人が少しでも出てくれれば、それで作者の目的は大いに達成されているのだと思います。


探偵ガリレオ

評価:
東野 圭吾
文藝春秋
¥ 570
(2002-02-10)
コメント:「容疑者Xの献身」を読んだので、シリーズ第1作のこの本を読んでみました。こちらもなかなか読みやすくておもしろかったです。

 「容疑者Xの献身」では、探偵役である湯川学が、なぜ物理学者という設定になっていたのかが今ひとつよくわからなかったのですが、この本を読んで納得。連作短編集で5つの事件が修められているのですが、すべて物理的(あるいは科学的)トリックを使った話になっており、小説を読むことで、ちょっとした科学の勉強にもなるという趣向。ただ、科学読み物ではなく、あくまでもミステリなので、オカルト的な味付けがされていたり、ちょっと意外な真犯人がいたりというサービスもしっかりとなされています。

ミステリファンの間では、一般的に物理的トリックよりも人間の思い込みを利用した心理的トリックの方が上等という考えが強いのですが、このシリーズは、あえてその一般論に挑戦して、どこまでおもしろい物理的トリックの話を書けるかという意図で書かれたものかもしれないというようなことも想像させられ、楽しかったです。(でも、結局「容疑者Xの献身」で使われているのは心理的トリックの方でしたが)

テレビドラマにもなったそうですが、たしかに視覚的に派手そうな話ばかりで、映像向きというのも頷けました。




容疑者Xの献身

評価:
東野 圭吾
文藝春秋
¥ 660
(2008-08-05)
コメント:娘が読んで、トリックがすごかった、ものすごくおもしろかったので読んでみたらと強く進められたので読んだものです。これが東野圭吾の直木賞作品だったとは、恥ずかしながら読んだあとで知りました。

 倒叙もののミステリの王道のような本格ミステリで、娘の言うように確かに外連味のある大トリックによるどんでん返しがしっかりと仕掛けられています。
読んでいて、トリックの仕掛けについてはおおむね予想がついたのですが、だからといって必ずしもつまらなくなるものではなく、それを成り立たせるための小説としての仕掛けの方にむしろ舌を巻きました。さすが東野圭吾。
直木賞を受賞し、映画化もされたベストセラーですが、それだけのことはあります。未読の人は、やはり読んでみた方がいいでしょう。


1Q84

評価:
村上 春樹
新潮社
¥ 1,890
(2009-05-29)

評価:
村上 春樹
新潮社
¥ 1,890
(2009-05-29)

 前々から気になっていたベストセラーの本で、妻がイギリスに来る際持ってきてくれたものをようやく読みました。
実は、最初題名を本屋で見たときには「IQ84」で、知的障害者の本かと思っていたのですが、恥ずかしい見間違いでした。しかし1984年はちょうど僕が大学を卒業して社会人になった年に当たっていた関係もあって、大学時代にジョージ・オーウェルの「1984」を非常に興味深く読んだ記憶がまざまざと残っていましたので、非常に読むのを楽しみにしていました。

Book 1では、2人の主人公の話が1章ごとに交互に進められ、両者の接点が全く見えない中、後に2人がどのようにつながっていくのだろうという大きな謎や、殺人事件、新人賞詐欺などの現在の事件、あるいは主人公達の過去などミステリアスな謎が次々と提示され、おもしろい推理小説を読むような感覚で、楽しく読み進めることができました。

しかし、話が進むにつれて、ミステリというよりむしろファンタジー的な内容になってきて、最後はメタ文学みたいな展開になってしまったので、僕としては正直やや肩すかし。おまけにBook 2では全く完結しておらず、様々な伏線が大量に未解決のまま「続く」といった終わり方をしてしまっていたため、読み終えてかなりのフラストレーションがたまりました。

文章は非常によみやすいし、物語としてはおもしろいのですが、あまりミステリファン向けの小説とは言えないようです。でも、Book 3が出たら、やはり読んでしまうだろうなと思います。


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